Column
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佐々木 達郎佐々木達郎建築設計事務所 代表・建築家
軽井沢星野エリアのおかげで、建築家としての今がある
私がお世話になった大学の教授が建築家の東孝光先生に師事していたご縁で東 環境・建築研究所に入所し、東利恵さん率いる『星のや軽井沢』の建築設計チームに参加しました。これが私の社会人としての初仕事であり、軽井沢星野エリアとの馴れ初めです。
『星のや軽井沢』の設計には、軽井沢の特徴ある自然環境を生かすべく、地形に合わせて建物を配置するという手法が採用されました。ランドスケープデザインを踏まえながら線を引いたり家具を配置したりするのは、新人の私にとっては恵まれたこと。そのアイデアが次々と形になっていく様を現場で見続けられたのは贅沢以外の何物でもありません。独立後に手がけたホテル『BEB5軽井沢』には、その時の経験が確実に生かされています。
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軽井沢星野エリアで一番思い出に残っている「森を愉しみ、森を識る」体験とは
『BEB5軽井沢』そのものです。
かつて『星のや軽井沢』の建築に関わった時、1年半ほど軽井沢に移り住み、春から夏にかけてのさわやかな新緑、秋の真っ赤に染まる紅葉、冬の幻想的な霧や白銀の世界に魅せられました。私自身は雪深い北海道の稚内で生まれ育ったのですが、森が広がる軽井沢の冬はまったく別のもの。清々しくて、気持ちがいいんです。『BEB5軽井沢』の設計においては、この感動体験を大切にしました。
森の中の心地よさをいかにして顕在化させるか。宿泊特化型の施設ではなかなか悩ましいテーマではありますが、いろいろと考えを巡らした結果、中庭を設けることによって周囲の自然を積極的に引き込むことになりました。
また、視覚的にも工夫を凝らしています。例えば、パブリックスペース『TAMARIBA(タマリバ)』。中庭をぐるりと囲むように設け、中庭の自然を常に近くに感じられる空間にしました。壁面に樹木が映り込む鏡を配することで、中庭との一体化も図っています。家具や照明に鳥や木の実を連想させるデザインを採用したり、廊下や客室のベッドなど館内の至る所に角材を用いたりしたのも、敢えて木造建築にこだわったのも、森の中の心地よさを体験していただきたいという思いから行ったことです。
軽井沢星野エリアは、作って終わりではない
この20年の間、私は星野エリアの変遷をずっと見てきました。いろんな議論があったのも知っています。はっきりしていたのは、エリア全体への意識。常に施設と施設を繋ぐことを考えている。施設の周辺だけを整備するだけでなく、例えば『BEB5軽井沢』から『トンボの湯』の間に散策路を設け自然を感じられるようにする。全体が同じ思想で繋がり、広がっていく。面白くなるよう常に成長し続けている。作り手の目線で言うと、こういう場所が日本中に増えて欲しい。魅力的な場所は、ほかにもたくさんあるはずですから。
これは僕の思いつきになりますが、学校があったら楽しいかもしれませんね。小学校とか中学校とかではなく、軽井沢という土地の魅力を学ぶ学校。星野エリアにはお風呂に入れるところも、泊まれるところも、ご飯を食べられるところも、それから結婚式を挙げられるところもある。ならば学べるところがあってもいいのでは。そんなことを考えていると自然にワクワクしてきます。
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佐々木 達郎佐々木達郎建築設計事務所 代表・建築家
1979年北海道生まれ。'02年千葉工業大学工業デザイン学科を卒業し、'04年同大学修士課程修了。同年には東 環境・建築研究所に入社。星のや軽井沢、星のや東京、星のやバリのプロジェクトに携わる。'13年に佐々木達郎建築設計事務所を設立した後はBEB5軽井沢をはじめとする宿泊施設のほか、住宅設計も多く手がける。
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星野エリアは『陰翳礼讃』の世界を体感できる場所
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星野エリアは環境教育の拠点になる可能性も秘めている
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四季の移ろいを鮮やかに感じ取れる軽井沢に魅せられて
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これまでも、これからも、誰もが集い語り合える場所
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人とクマが共に生きる未来をつくることを目指して
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「キュレーション力」を今後ますます高めていってほしい
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作家としての節目は軽井沢星野エリアと共にあった
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