Column
蟹江 憲史慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授
軽井沢星野エリアのエコツーリズムに参加する歓びとは
――今回、蟹江憲史先生には初めて『星のや軽井沢』に滞在していただきました。いかがでしたか?
蟹江先生 心身ともに癒されました。棚田などのランドスケープや、眺めのいい客室、源泉掛け流しの温泉など、色々と印象に残りましたが、中でも「日本料理 嘉助」の朝食が魅力的でした。食材を使い切るという考えから、野菜を余すことなく出汁にも活用しているそうですね。大変滋味豊かな味わいでした。
また、『星のや軽井沢』については、以前、消費エネルギーを自前で作り出していることを伺い、素晴らしいと感じていましたが、その成果を実際に肌で感じられたのも有意義でしたね。
――『星のや軽井沢』が提案する2泊3日の「軽井沢ネイチャーステイ」については、体験してどんな感想をお持ちになりましたか?
蟹江先生 面白かったです。軽井沢野鳥の森で生き物の生態を知る『ピッキオ』のネイチャーツアーや、ツキノワグマと人との共存に向けた取り組みを学ぶスタディツアーに参加したり、野生のムササビを間近で観察したり、日常では得られない貴重なひと時を過ごすことができました。
――どんなことが印象に残りましたか?
蟹江先生 ひとつはネイチャーツアーに子どもがたくさん参加していたこと。森を散策するにしても単に地図を頼りに歩くのではなく、エコツアーガイドの方が解説を交えてくださる。説明があると解像度が上がり理解が深まることをしみじみ実感しました。
――クマの生態を学ぶツアーでは積極的にご質問されていたようですね。
蟹江先生 ええ。クマとの軋轢は今や各地で深刻化しています。パンデミックだって結局は人間と獣の境界線が薄れて近づきすぎたことに起因しているわけですし、両者のすみわけについては地域ぐるみで考えていく必要があります。ツアーに参加したことで、軽井沢ではベアドッグを使ってクマを追い払ったり、クマと人との間に緩衝地帯を設けたり、いろいろと先進的な取り組みが行われていることがわかりましたが、自分ごととして真剣に向き合う意義は非常に大きい。今回は普段は見られない星野エリアの水力発電所にも案内していただいて現場の方のご苦労も伺い、水力発電を広く普及させるために解決しなければならない課題についても大いに考えさせられました。
軽井沢星野エリアは自然と共生するリゾートの最前線
――環境保全の観点から軽井沢という土地に対してどんな感想をお持ちになりましたか?
蟹江先生 自然との共生を強く意識している。これまで軽井沢に来たことは何度かありますが、星野エリアに滞在した今回は特にそれを感じました。先ほどもお話しした通り、自然と人間の緩衝地帯を作っていくことは日本各地に共通する課題です。星野エリアはその解決に最前線で取り組んでいるのではないでしょうか。
――軽井沢星野エリアに期待することはありますか?
蟹江先生 今回の訪問を踏まえて“故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る”とはまさにこういうことだ、と実感しました。昔ながらの水力の活用や地形を生かしたホスピタリティは、“新しいラグジュアリー”を考えるうえで実に示唆に富んでいる。その姿勢こそが持続可能性であり、それを魅力あるものとしていくことがこれからはとても重要になる。そんなことを考えていた折に星野エリアを訪問し、開眼した思いです。これまでも星野リゾートの施設には何度か滞在してきましたが、また違った角度から拝見することができたように思っています。
星野エリアには環境教育の拠点になってほしい
――ところで、蟹江先生は教育者でもいらっしゃいます。『ピッキオ』のネイチャーツアーにお子さまがたくさん参加されていたように、星野エリアでは大人も子どもも共に楽しみつつ動物や自然への理解・関心を高めてもらう取り組みを行っています。
蟹江先生 子どもはまるでスポンジのような吸収力で学び、成長していきますよね。
私は小学生の時に親の仕事の都合でインドネシアに渡り、それを機に海外と関わりを持つ仕事に興味を持ちました。そのうち国連に関心を抱き、国連でリーダーシップを取るのが環境先進国だとわかると、国際政治と、地球環境問題を解決するためのガバナンスを研究するようになったのです。
現在は大学のほか中学校でもSDGs教育を行っていますが、中学生の頭はやっぱり柔らかい。リサイクルした物質を使ってオリジナルのマイボトルを作るとか、体験を通してサステナビリティを知ると、自分ごととして考えるようになります。お子さんがネイチャーツアーに参加したら、今はよくわからなくても、後で振り返った時にそういうことだったんだと悟るでしょう。星野エリアは環境教育の場としても大変有効であると思います。
蟹江 憲史慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授
1969年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒、同大学院で博士(政策・メディア)取得。2015年より慶應義塾大学大学院教授、SFC研究所xSDG・ラボ代表。SDGs関連の政府委員を多数務め、2023年には国連のGlobal Sustainable Development Report執筆者15名の一人に選出。専門は国際関係論とサステイナビリティ学。